放歌高吟 七月号

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    月刊俳句マガジン『100年俳句計画』8月号がそろそろお手元の届く頃です。一ヶ月遅れの連載「放歌高吟」をお届けします。


    放歌高吟 七月号

         芒種

      首夏の夜を臭う食肉市場なり
      ギイと鳴く蝙蝠の胸薄っぺら
      オオキンケイギクのざわめく夜の底
      代掻の轟きに水さわぎだす
      卯の花のきらきらどこへでも行ける
      孕みたる目高の金色に怯ゆ
      富士山が見える日泰山木咲いた日
      ぎいちゅるぎいちゅる青梅にくる鳥の名は
      軌道はるけし芒種の石に鉄の錆
      野の水に星の匂える芒種かな
      芒種いま夕星細くしてたしか
      セリヌンチウスよ芒種の酒を注ぎたまえ

     

     

     

     

     「芒種」という時候の季語に初めてお目にかかったのは、『藍生』遍路吟行で岩屋寺に行った夜。有志で開いた鍛錬句会にて、大先輩の山口都茂女さんが出された席題がこの季語だった。
     「ぼうしゅ」と言われて、漢字すら浮かばなかった。手持ちの歳時記を引いてみると【イネやムギなどの芒(のぎ)のある作物の種を播く時節】と解説してあったが、まず「芒」が分からない。が、籾のトゲトゲした感じかな…と漠然と思った。後で調べてみて【イネ科植物の外花穎(がいかえい)の先端が細長く伸びて剛毛状の突起となった部分】といったような情報を手に入れるわけだが、その場では未知の季語。ひたすら唸るしかなかった。

     ごんごんと芒種の水を飲み干せり

     辛うじてひねり出したのがこの一句。出題した都茂女さんが誉めて下さったのが嬉しかったが、句会が終わった後も、この季語が何ものだか全く分からないままだった。都茂女さんが発音する「ぼうしゅ」という響きがいかにも崇高に感じられ、その日から気になって仕方ない季語となった。
     この日の昼間、私は第一句集『伊月集・梟』の序文を黒田杏子先生から頂いた。その序文にはこんな一節がある。

     いよいよあすは第四十五番海岸山岩屋寺にゆく。国民宿舎岩屋荘に泊まって、幹事の夏井いつきさんをはじめ、各地から参集する仲間と前夜句会が予定されている。

     ここに書かれている「前夜句会」が、まさに前述の句会であり、私が初めて「芒種」という季語と出会った場だ。杏子先生の序文の最後に記されている日付は「平成十一年五月」。すでに十四年の月日が流れていることに驚く。
     あの日以来、近寄りがたい季語として敬遠してきた「芒種」に、百年俳句塾の仲間たちと共に挑んだ。ほんの少し「芒種」という季語の尻尾に触れたような気がした。嬉しい感触だった。都茂女さんの「ぼうしゅ」という発音がありありと耳に蘇った。フランス語のような、くぐもったみちのくの響きだ。かの美しい響きに誉められたような気がした今年の芒種への感慨。


    放歌高吟 六月号

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      そろそろ七月号が発送される頃。一月遅れの「放歌高吟」六月号分お届けします。


      六月号

        立方体

      立夏という立方体の野のひかり
      風の村と呼ばれ桜の実のさかり
      河骨の咲けば水くすぐったくて
      百本のオールを薫風に運ぶ
      水門や芒種の太陽が痒い
      よく鳴りし草笛を水葬に付す
      給食は豆飯校訓は勤勉
      校舎より見ゆる泉の名を知らず
      ヘラクレスの手斧のごとき夏燕
      詩人への手紙に薔薇のことその他
      パレードの馬嘶くや聖五月
      そはレモンの花か青空香る日の妻よ


       NHK『俳句王国はゆく』の公開収録で長野県小諸市を訪れた。

       小諸なる古城のほとり
       雲白く遊子悲しむ

       『千曲川旅情の歌』の歌詞となった島崎藤村の作品にも詠まれている小諸は、高濱虚子が戦時中に疎開した地としても知られている。俳人として訪れたい地の一つが、小諸ではないかと思う。
       公開収録前日のロケや当日の愉快に満ちた会場の様子は、6月16日のオンエアーを観て下さい!というしかないが、実はワタクシ、小諸を訪れるにあたって心密かな企みを抱いていた。
       『俳句王国はゆく』は、俳句バトルを繰り広げる出演者の皆さんが主役であり、且つその町の魅力が主役となるべき番組なので、今回ワタクシが仰せつかった主宰なんて立場は置物の猫みたいなもの(笑)。吟行には同行するが、俳句を提出する必要もないロケは、申し訳ないほどの気楽さ。だからこそ、虚子の『小諸百句』にちなみ、己にも小諸百句というちょっとした負荷をかけてみるのも面白いなと思い立った。
       『小諸百句』とは、虚子が当地滞在中の句をまとめた作品。その虚子にあやかり、多作多捨のトレーニングを虚子ゆかりの地でやるなんぞは、さぞ気合いが入るに違いない!と思ったまでの試みなのだ。
       そんなこんなの意気揚々、いざ百句!とペンを握ると、雪をいただく日本アルプス、八ヶ岳の光景に目を奪われ、猛々しい浅間山の山容に息を飲み、しばし呆然。こりゃ、いかん……と己を奮い立たせつつ、ペンを握り直すこと幾度。八重桜が咲き、なんじゃもんじゃの花は細い蕾。鈴蘭は小さな花を揺らせ、風に翻る若葉は立方体のひかりを放つ、小諸。目に入ったものを次々に文字にしていく静かな興奮を楽しんだ。
       この原稿を書いている今日、小諸〜東京の旅からやっと松山に戻ったところで、まだ句帳の整理をしてない。が、百句かそれに近い句数は書きとめられたのではないかと思う。いつか私なりの句集シングル『小諸百句』が発表できる日が来るかもしれないが、そのためには別の季節の別の小諸を味わいに、彼の地に通わねばならぬ。人生の小さな夢がまた一つ。これもまた俳人的シアワセってやつなんだな、きっと。 



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