枕草子はいかが?

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    大学の卒論は、最後まで中世の和歌にするか、清少納言『枕草子』にするかで迷った。結局のところ、中世の「歌合わせ」をテーマに選び、その経験から生まれたのが俳句甲子園の団体戦「句合わせ」のアイデアとなったのだから、人生どこで何がどう繋がってくるか分からないものだ。

      あてなるもの 
      薄色に白襲(しらがさね)の汗衫(かざみ)。
      かりのこ。
      削り氷(けずりひ)にあまづら入れて、あたらしき金鋺(かなまり)に入れたる。
      水晶の数珠(ずず)。
      藤の花。
      梅の花に雪のふりかかりたる。
      いみじううつくしきちごの、いちごなどくひたる。

    『枕草子』四十二段の一節。(横書きの悲しさ、ルビの不自由。こんな表記にさせてもらった…すんません、清少納言さん。)

    「あてなるもの」とは、上品なものという意味。つまり、清少納言が、これは上品だよな〜と思ったものを書き連ねているのが、四十二段なのだ。

    二行目「かりのこ」とは、家鴨や鵞鳥などの卵のこと。どうしてこれが上品なものであるのか、ワタシにゃ分からん。鶏の卵に比べて、上品な感じがするんだろか? 少なくとも卵かけ御飯には使わん…か?

    四行目「あまづら」とは、「甘葛」のことで、蔓や葉の汁を煮つめて甘味料としたもの。平安時代のかき氷とは、こんなものだったのだ。それも貴族のみの、ウルトラ級の贅沢ってヤツなんだろう。うん、これは分かる!

    『枕草子』の面白いのは、こんな上品なものづくしの段があれば、その三つ隣にこんなスゴイことを言い放ってる段があったりすることだ。(四十五段から抜粋)

      にげなきもの
      下衆(げす)の家に雪の降りたる。また、月のさし入りたるもくちをし。 (中略)
      また、老いたる女の腹たかくありく。
      わかきをとこ持ちたるだに見ぐるしきに、こと人のもとへいきたるとてはら立つよ。
      老いたるをとこの寝まどひたる。
      また、さやうに鬚(ひげ)がちなるものの椎(しい)摘みたる。
      歯もなき女の梅(むめ)くひて酸(す)がりたる。
      下衆の紅の袴着たる。
      この頃はそれのみぞあめる。
      
    「にげなきもの」とは、似合わない感じのものという意味。
    「下衆」つまり下々の者の家に雪が降ってるのは、似合わないとおっしゃる。すでにここで、ほっとってくれ!と言いたくなる。そんな「下衆」の家に、美しい「月」の光が射し込んでいくのも「くちをし」…と、まで言われた日にゃあ、庶民は口あんぐりである。

    三行目「老いたる女の腹たかく」とは、年をとってる女が妊娠しているさま。
    問題なのはこの「老いたる女」の年齢だが、はるか後年の江戸時代を描いた池波正太郎著『鬼平犯科帖』には、「年の頃は三十過ぎの大年増」なんて表現があるぐらいだから、清少納言様の生きた平安時代はさらにさらに?!…であろうことは容易に想像できる。(…となると、今年、無事五十一歳を迎えたワタクシは、玉梓(たまずさ)が怨霊級…か?!)

    三行目以下をザックリ口語訳すると、こんな感じ・・

      年取った女の妊娠して歩く(姿)。
      情夫を持っているだけでも見苦しいのに、その男が他の女のところへ通ったといって腹を立てている(ことも似合わない感じがする)よ。
      老いた男が寝ぼけている(ようす)。
      鬚面のくせに(子どもみたいに)椎の実を拾って食べている(姿も似合わない。)
    歯のない女が梅干しを食べて酸っぱがっている(さま)。
      下々の者が紅の袴を来ている(のも似合わない)。
      この頃はそういう女ばかりいるようだ。

    スゲーよな〜、清少納言。
    「この頃はそれのみぞあめる」なんて、よくもまあ言い放てるもんだ…!
    ワタシなんてこんなこと絶対に書けない。そっと、遠慮がちに「立派な足が六本、堂々とそこにあった」ぐらいの、ささやかな意見を述べさせてもらうのが精一杯である。

    清少納言さま VS エリカさま …なかなかの名勝負である。

    コメント
    「夏井いつきの100年日記」にすっかり、虜になってしまいました。
    「追っかけ」になりそうです。
    追っかけたら、逃げてください。

    100年日記を毎日楽しみにしています。
    • 鉢かづき
    • 2008/08/14 10:54 AM
    空です。
    毎日、楽しみに読んでいます。

    清少納言さんの感性って、(多分)その頃の常識にとらわれない斬新なものですよね。
    ある意味、いつき組のみなさんの感性と似ているかも。

    毒舌もびっくりするくらいあるけれど、中宮定子に対する愛と崇拝を見ると、とっても可愛い女だったんじゃないかと思います。
    才能と思いっきりの良さで、歴史に残った彼女は、ある意味組長に似ている?
    • Qu
    • 2008/08/15 7:34 PM
    この時代に、もうイチゴはあったんだなあ、と驚きました。
    • 播磨陽子
    • 2017/06/30 9:15 PM
    いつき先生がこの記事をお書きになって9年後の8月にこのページにたどり着きました。
    第四十五段のおもしろさを始めて知りました。
    そしてプレバトの「ごっつ毒舌の先生」から想像もつかない、こんなこと書けない、なんていう 奥ゆかしさにそっと触れた感覚です。
    • rose
    • 2017/08/26 11:46 AM
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