俳句を愛するということ

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俳句を愛する私たちは、お互いの作品を信頼することを土台としています。

 

俳句には「類想類句」という言葉があります。

文字通り、同類の発想・同類の句という意味です。似たような発想の元に、似たような句ができるのは、短詩系文学の宿命です。ましてや俳句はたった十七音。俳句を作るということは「類想類句」との闘いなのです。

 

しかし「類想類句」を恐れていては、俳句は作れません。日本中いや世界中で作られている俳句、詩歌すべてを網羅するデータベースを作ることは不可能。そんなことに奔走するのは、本末転倒。

 

俳句を愛する私たちは、自分の心を表現したくて俳句を作る。

あくまでもそれが第一義です。

 

「類想類句」は当然生まれます。

だから、俳句を愛する私たちは、他の人とは違った表現、多彩なオリジナリティと究極のリアリティを求めて研鑽し合うのです。数日前の本ブログ記事への書き込み。福岡の理酔くんが書いてくれてました。ニックの音楽に対する姿勢に触れたコメントです。

 

「ニックさんの音楽に対する姿勢に圧倒されます、変化させようもない名曲のスコアにどう己の音をぶちこむのかを問い実行する。スコアの忠実な再現者ではない表現者の闘いに感銘します。
俳句も同じだ、昔からある季語に対峙して如何に新しい表現をぶつけるか。古い革袋には新しい酒ではなくて、誰も知らない酒を注ぎ込まなくてはと思いを新たにしました。」

 

そう、これが俳句を愛する私たちが求めるものです。

 

とはいえ、たった十七音しかない俳句ですから、自分が創った句が誰かの句に類似していた!ということはよくあります。あるいは、その句がいつかどこかの段階で自分の脳に刷り込まれていて、自分の句のような顔をして後日現れるということもあります。私も経験したこと、何度もあります。

 

 

最初に経験したのは三十年前。まだ初心の頃です。

先輩方と吟行に行きました。気持ちのよい秋の日でした。座り心地のよい石を見つけてそこに座り、句帳を開いていると、頭上から大きな葉が降ってくるのに気づきました。大きな葉でした。秋のひかりを受けながら、きらりきらりと落ちてくるのです。なんて美しい葉なんだろうと感嘆しつつ眺めていると、心の奥底から一片の詩句が浮かび上がりました。

「日当たりながら落ちにけり」

うん、これはまさにこの葉の描写だ!と自分なりに納得しました。あとはこの葉がなんという植物の葉なのか、誰かに聞けばいいだけです。近くを通りかかった、句会の先輩に「これはなんという木の葉っぱですか。」すると先輩は、笑いながら「いつきさん、この葉の名前を知らないのか。桐だよ、桐一葉だよ」と教えて下さいました。へえ、これが桐か。そういえば「桐一葉」って季語が歳時記に載ってたなあ。

「桐一葉日当たりながら落ちにけり」

うん、佳い句を授かった!と思った瞬間、脳内に妙な波長が起こりました。ん?……これは。次の瞬間、私は唖然としました。これは高浜虚子の句だったことに気づいたからです。この葉の名前が分からない状態で、中七下五の詩句が浮かぶ! これぞ、虚子の言葉の力なんだ!と、ひれ伏す思いでした。

俳句を続けていれば、誰にでもこんな経験はあります。
俳句を愛する私たちは、お互いの作品を信頼することを土台としています。
誰かの作品が別の誰かの作品に酷似している。それを論って批判するのは、大人げの無い行為です。その先行句を元々知らないケースもあれば、全くの偶然ということもあるのですから、悪意を前提としての批判は無粋です。そんな時は、ご本人にそっと知らせてあげればよいのです。どこそこに発表された○○さんの句にこんなのがありますよ、と。俳句の世界では、後に発表した作者がその作品を取り下げる、のが暗黙のルール。作者の側は「先行句、知らせていただいてありがとう」と、知らせてくれた人にお礼を言う。それで何の問題もないのです。

時に反論する人もいます。
「意図的に盗作をする人を許し続けるのですか!?」

そのような人は、俳句を愛している人ではなく、誉められることを愛している人です。
そのような人たちは、いずれ俳句に捨てられます。
実に傷ましいことです。
痛々しいことです。

俳句を愛する私たちは、俳句に捨てられたくない。
だから、真摯に俳句と立ち向かう。
だから、真剣に俳句と遊ぶのです。

俳句を愛する私たちは、信頼のもとにつながっていなくてはいけません。
清らかな思いで、俳句のある人生を共に歩いてまいりましょう。



コメント
組長様、ワタクシの戯れ言を引っ張り出していただきましてありがとうございます。個人的には未だに先行句の件にぶつかったことはありませんが「その時は、先人のレベルまで辿り着いた事を喜び、真摯な態度で己の句を取り下げる」で、よいのではないでしょうか。
その人はもっと良い句が幾らでも出来るレベルでしょうから、その句はあっさりと棄てて次に向った方がよろしいと考えます。


理酔拝
  • 理酔
  • 2017/04/09 11:02 AM
そうなんですよね。誰かの作品が別の誰かの作品に、似ていたら、それをネタに、楽しそうに、面白そうに、批判してくる人いるんですよね。何か、上手く言えませんが、結局、彼らが詠んでいるのは、俳句ではなくて、自分への愛。自己愛を詠んでいるという気がすると言いますか。とにかく、彼らが詠んでいるのは、俳句ではない。私も、そんな人にならないように、俳句を愛しながら、この人生を歩んで行きたいです。
  • 大津美
  • 2017/04/09 11:10 AM
もう何年も前の話ですが、所属結社の句会に出た時のこと、入会間もない方(俳歴はおありの方)が、少し俳句をやっているものなら誰もが知っていておかしくない名句の上五に字余りの文言を足して出句されてました。選者の講評が始まり、当然そこは指摘されるだろうと思って聞いておりましたが、一向にその気配がありません。あまつさえ、点が入る有様。仕方なく作者のそばまで行って、こっそり歳時記を示して、その旨を伝えると、すごい顔でにらまれてしまいました。以後、句会でその方と一緒になるのは憂鬱の種のままです。
こんなこともありました。主宰の選とは別に、同人誌の切磋琢磨のシステムとして、互選のページが設けられていました。小さい結社ながら毎月千を超える句を、当時、選が面白くて仕方がなかった私は、舐めるようにして全句を拝見して、これ!という一句を見出して自己満足に浸っていたものです。ある月のこと、
その一句に関して、少し珍しい季語だったので、季語の本意を知ろうとして季語辞典を紐解きました。そして、川端茅舎の句に一字一句違わない名句があることを知りました。主宰選と互選には一か月のずれがありましたので、もし主宰がご存じないならこの句は当然選ばれていることだろう。もしご存じであったならば、誌の片隅欄に類句が見つかったから取り下げますという文言がひっそりと記されているだろうに、その文字はどこを探してもありませんでした。要するに、茅舎の名句は見落とされたのです。仕方ないのでその旨をしたためて、編集社に報告しました。結局、作者より取り下げの文言が載ったのは、二、三か月遅れてからのことでした。それ以後、自分の選句熱が急速に冷めていき今に至ります。
ここでこんなことを書き込むのが適当とは思いませんが、楽しい俳句の集まだからこそ、類想類句の軋轢は、自らを含め、避けて通れない頭の痛い問題です。
ただ、そんな嫌な思いや失望を味わいつつも、俳句は、それ以上の人生の充実を約束してくれる、素晴らしい世界最短詩であるという思いは変わりません。
思わず長々と書き込んでしまい、失礼いたしました。
  • チィープ
  • 2017/04/09 11:42 AM
私も同意見です。「盗作された!」と騒ぐ人もいますが、盗作で誉められたって意味ないでしょう。

盗作するような人は進歩もないし、人に信頼されないでしょう。自分自身でも恥ずかしくなるのではないでしょうか?

ならない人は、もはや人間失格です。
  • いつき組リスナー班 たあさん
  • 2017/04/09 11:54 AM
だからさ「歳時記を捨てよ、町に出よう」なのさ
  • ねこ端石
  • 2017/04/09 12:23 PM
組長様、先日からこちらのブログの俳句でお世話になっております、豊田すばるです。俳句を始めて4ヶ月になりました。

私が玄関の書き込みをして、後から見直そうと思ったときに、管理者承認待ちのままでした。
理由を自分なりに考え、多分俳句に不備(類想類句もしくは同句)があったんだろうなあと思いました。思い当たったときに、頭を抱えてしまいました。いくつか書いてしまったのでどの句か分からないのですが…。謝りたかったのですが、方法を数週間前から決めかねていたのです。ですが、本日のブログを拝読して書き込みをさせていただきます。

どなたかは存じ上げないのですが、申し訳ありませんでした。
けれども、これに懲りずに俳句を続けていきたいと思います。

組長、この場をお借りして申し訳ありません。自己満足かもしれませんが、ずっとモヤモヤしていたので、書き込みをしたことでスッとしました。
そして、お忙しい中、お手数をおかけして申し訳ありませんでした。
朝夕は花冷えしておりますので、お身体ご自愛下さい。

長文、失礼いたしました。
  • 豊田すばる
  • 2017/04/09 6:14 PM
管理者の承認待ちコメントです。
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  • 2017/04/09 8:19 PM
管理者の承認待ちコメントです。
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  • 2017/04/09 8:26 PM
去る3月の一句一遊「走」の兼題のとき、私60歳(男)の句が、なんと11歳のお嬢さんと上五の季語以外、つまり中七下五が一字一句違わず全く同じになったことがありました。俳句上手の見も知らぬ他県の小学生と同じ句であったことに、うれしい驚きを感じました。なんという偶然。こんなことがあるんですよね。「類想句」というのはさておき、私にも11歳のみずみずしさ、若さが残ってたんだと、その日は何だか豊かな気持ちになったことを覚えています。
  • 88
  • 2017/04/09 8:49 PM
お疲れ様です

感動しました
自分も俳句を愛する大人になりたいです

そして、豊田様
多分それは、類相類句が原因ではなく、コメント記入欄に個人情報、住所や電話番号が含まれいたのがもしかしたら原因だと思いますので、
それで、コメントが表示されていないのだと思います!!
ですから、組長は句は見てくださっているので安心していただいて大丈夫ですよ!
  • 人見直樹
  • 2017/04/10 12:31 AM
組長のおっしゃることがとても清々しく、俳句の世界にちょこっと踏み入れた足にぐっと力が入る気がしました。
清らかで、大人で、思いやりを持って、楽しく、自由で、
ここは良いところですね、嬉しい。
  • urarasan
  • 2017/04/10 6:43 AM
あの虚子の名句をもし虚子が遺さなかったら、我らが組長の代表句として現在あったかも知れないと思うとゾクゾクします。

類想と剽窃は全く別なものです。
一度、俳句ポストにあった有名句と同一句を指摘したことがありましたが、ギャ句の原句と同じ句が同じ週の選に載っていては品位に関わると思ったまでで、作者の思いは気に留めませんでした。
理酔さんが以前おっしゃっていましたが、名句と同じ句を思いついたのであれば、同じ地点までたどり着いたと思って満足すればいいのです。
先行句を知った時点で取り下げればいいだけです。

剽窃の場合は、なんの満足感も進歩もありませんが、類想や同一句の場合は、有名俳人と同じ境界までたどり着けたという満足があります。
先行句があったからといって、そこまでたどり着いた自分の努力が無駄にはならないと思います。
そこから先に進めば必ず自分だけの句が詠めるからです。

剽窃の場合は、全く意味がありません。
単なるコピペでしかないと思います。

その違いは、自分自身が知っていれば、後は何も恥じる必要はないと思うのです。
先生。お疲れ様です。

私は。17年前の冬。
先生に再会したときに。
俳句をすすめられたのが始まりでした。

会話もそうですが。
文章を綴るのも。あまり得意じゃないけど。

先生の話を聞いていて。
もう一度、先生の下で勉強したいと思って。

俳句便覧と歳時記を購入しました。

自分のペースで、下手ながらも・・・

結果。会話も。視野も広がりました!!

先生。こちらこそ。ありがとうございます。


女王の白き心や卯月夜へ(かりん)
  • 蒼馬かりん
  • 2017/04/10 1:35 PM
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  • 2017/04/10 2:14 PM
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  • 2017/04/11 9:40 PM
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  • 2017/04/11 9:43 PM
類想類句。先日、めっちゃ良いアイディアが
浮かんだのてすが、「きっとどなたかが、同じことをかんがえているに違いない」と思いました。

でも、作ってみないっ、類句なのかどうか分からないので、 作ってみました。

  • すそのあきこ
  • 2017/04/17 5:04 AM
はじめまして。
昨年よりプレバトを見て、俳句を作りはじめました。
先生に添削された句が、いきいきと劇的に変わるのがおもしろいです。

すでにあちこちに投句していますが、その時に気にかかっている事が、タイミング良く(先生のブログを見つけたばかりなのに)書かれていて嬉しいです。
  • すみ
  • 2017/04/21 1:35 AM
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  • 2017/04/24 5:09 PM
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