俳句ネットワーク 兼題「虎落笛」オンエア
※タイトルコールおよび前説
掛川アナ 松山の俳句集団「いつき組」組長夏井いつきさんです。夏井さん、おはようございます!
夏井 おはようございます。綺麗な朝ですね、今、私の背中越しに太陽が照り始めてます。
掛川 スタジオから城山が見えるんですが、城山の一部に朝日が射してます。松山の日の出は7時10分ぐらいだと思うんですが、山の位置の関係で、日の出の実感としてはちょうど今の感じですね。
掛川 さて、今朝ご紹介する季語は「虎落笛」です。「虎」に「落ちる」に「笛」と書いて「もがりぶえ」。夏井さん、これはどういう季語なんでしょうか?
夏井 「もがり」はもともとは戦などのとき、竹を筋違いに組み合わせて縄でしっかり結い固めて柵をしたものです。大河ドラマの合戦シーンで見たことあるかもしれませんね。そこに吹き付ける烈風のたてる音が虎落笛。風の激しい冬、電線がヒューヒュー鳴りますね。あれも虎落笛と捉えていいかと思います。さみしい音に加えて、季語の背景に「戦」のイメージもあって、不気味な季語といえます。
掛川 「虎落笛」を詠んだ句には、どんなものがありますか。
夏井 大変有名な一句です。
もがり笛風の又三郎やぁーい 上田五千石
夏井 宮沢賢治の『風の又三郎』の世界を下敷きにした一句です。村の小学校に転校してきた三郎少年は、風の神あるいは悪霊である「風の又三郎」ではないかと噂されます。物語の最後には疎外され、再び転校してしまう三郎少年。「虎落笛」という季語の本意と物語が響き合います。おどろおどろしい風の響き、蕭条ともたらされる寂しさ。虎落笛に向かって呼びかける「やぁーい」という響きも「虎落笛」と共に消え入っていくようです。
掛川 それでは、俳句集団いつき組の皆さんが詠んだ俳句を紹介してください。
夏井 今回も私のブログで「虎落笛」の句を募集しました。今日は集まった351句の中から三句をご紹介いたします。
掛川 では一句目をお願いします。
夏井 字面を活かした一句から。
虎落笛あれは頭上を越える虎 猫じゃらし
夏井 そもそもが「もがりぶえ」っていう音を聴いただけだと絶対に漢字が思い浮かばない季語よね。
掛川 先ほどもお伝えましたが、「虎」「落ちる」「笛」の三文字で「もがりぶえ」と読みます。
夏井 その意外な字面から発想した一句。ああ、この「虎落笛」は今まさにワタクシの頭上を虎が越えているような音だよ、という実感。中七で、指し示すように「あれは」と語り始めるのがうまいですね。この一語が臨場感を作ります。また「落ちる」のではなく「越える」という横方向の広がりを感じさせる動詞を選択したのも、発想をただの機知で終わらせない工夫でした。
掛川 では二句目をお願いします。
夏井 胸に迫る一句です。
君の死を君は知らない虎落笛 恋衣
夏井 ぽろっと零れ出たつぶやきのような詩の言葉が読み手の心をハッと捕らえます。「君」はどのようにして亡くなったのでしょうか。自分の死を自覚する間もなく亡くなった「君」に対し、残された人はなにを思うのでしょう。さまざまな思いをあれこれ語るのではなく、「虎落笛」という季語の力を信じて託しました。一句の最後に「虎落笛」という季語が出現することで、悲しみの強さ、やり切れなさが胸中に吹き渡ります。
掛川 最後の一句をお願いします。
夏井 はい。
陵を塒とせむや虎落笛 内藤羊皐
夏井 陵(みささぎ)は分かりますよね。
掛川 天皇・皇后の墓所ですね。
夏井 その墓所に吹く「虎落笛」です。「ねぐら」は鳥の寝るところを指す言葉ですね。陵を塒としているのだろうよ、いるに違いないよ、と強い確信に近いような推量。中七の切れのあとに広がる陵の映像に、虎落笛という聴覚の情報が加わることで空間が立体的に立ち上がってきます。土偏に時間の時の字をくっつけて「塒」という一字の効果、こんもりとした「陵」の茂り具合、そこには虎落笛に混じってぎゃあぎゃあと鳥の鳴く声も聞こえてくるのかもしれませんし、鳥たちは陵の暗やみの中で息を潜めているのかもしれません。虎落笛という映像を持たない季語を使うことで映像に奥行きを生み出す、手法の面白い一句でした。
掛川 この週末の気圧配置を見ると、強い風が吹きそうな気配です。聴けるかもしれませんね、虎落笛。
夏井 その音を耳にして、ああこれが「虎落笛」かと、季語を体験していただけると嬉しいなあ。
掛川 ただの冷たい風だなあ〜ではなく、「虎落笛」だと認識して風の音を聴きたいものですね。
夏井 掛川さん、語ることが俳人だね!
掛川 いやいや(笑)、夏井さん、「いつき組」の皆さん、今日はありがとうございました。
掛川アナ 松山の俳句集団「いつき組」組長夏井いつきさんです。夏井さん、おはようございます!
夏井 おはようございます。綺麗な朝ですね、今、私の背中越しに太陽が照り始めてます。
掛川 スタジオから城山が見えるんですが、城山の一部に朝日が射してます。松山の日の出は7時10分ぐらいだと思うんですが、山の位置の関係で、日の出の実感としてはちょうど今の感じですね。
掛川 さて、今朝ご紹介する季語は「虎落笛」です。「虎」に「落ちる」に「笛」と書いて「もがりぶえ」。夏井さん、これはどういう季語なんでしょうか?
夏井 「もがり」はもともとは戦などのとき、竹を筋違いに組み合わせて縄でしっかり結い固めて柵をしたものです。大河ドラマの合戦シーンで見たことあるかもしれませんね。そこに吹き付ける烈風のたてる音が虎落笛。風の激しい冬、電線がヒューヒュー鳴りますね。あれも虎落笛と捉えていいかと思います。さみしい音に加えて、季語の背景に「戦」のイメージもあって、不気味な季語といえます。
掛川 「虎落笛」を詠んだ句には、どんなものがありますか。
夏井 大変有名な一句です。
もがり笛風の又三郎やぁーい 上田五千石
夏井 宮沢賢治の『風の又三郎』の世界を下敷きにした一句です。村の小学校に転校してきた三郎少年は、風の神あるいは悪霊である「風の又三郎」ではないかと噂されます。物語の最後には疎外され、再び転校してしまう三郎少年。「虎落笛」という季語の本意と物語が響き合います。おどろおどろしい風の響き、蕭条ともたらされる寂しさ。虎落笛に向かって呼びかける「やぁーい」という響きも「虎落笛」と共に消え入っていくようです。
掛川 それでは、俳句集団いつき組の皆さんが詠んだ俳句を紹介してください。
夏井 今回も私のブログで「虎落笛」の句を募集しました。今日は集まった351句の中から三句をご紹介いたします。
掛川 では一句目をお願いします。
夏井 字面を活かした一句から。
虎落笛あれは頭上を越える虎 猫じゃらし
夏井 そもそもが「もがりぶえ」っていう音を聴いただけだと絶対に漢字が思い浮かばない季語よね。
掛川 先ほどもお伝えましたが、「虎」「落ちる」「笛」の三文字で「もがりぶえ」と読みます。
夏井 その意外な字面から発想した一句。ああ、この「虎落笛」は今まさにワタクシの頭上を虎が越えているような音だよ、という実感。中七で、指し示すように「あれは」と語り始めるのがうまいですね。この一語が臨場感を作ります。また「落ちる」のではなく「越える」という横方向の広がりを感じさせる動詞を選択したのも、発想をただの機知で終わらせない工夫でした。
掛川 では二句目をお願いします。
夏井 胸に迫る一句です。
君の死を君は知らない虎落笛 恋衣
夏井 ぽろっと零れ出たつぶやきのような詩の言葉が読み手の心をハッと捕らえます。「君」はどのようにして亡くなったのでしょうか。自分の死を自覚する間もなく亡くなった「君」に対し、残された人はなにを思うのでしょう。さまざまな思いをあれこれ語るのではなく、「虎落笛」という季語の力を信じて託しました。一句の最後に「虎落笛」という季語が出現することで、悲しみの強さ、やり切れなさが胸中に吹き渡ります。
掛川 最後の一句をお願いします。
夏井 はい。
陵を塒とせむや虎落笛 内藤羊皐
夏井 陵(みささぎ)は分かりますよね。
掛川 天皇・皇后の墓所ですね。
夏井 その墓所に吹く「虎落笛」です。「ねぐら」は鳥の寝るところを指す言葉ですね。陵を塒としているのだろうよ、いるに違いないよ、と強い確信に近いような推量。中七の切れのあとに広がる陵の映像に、虎落笛という聴覚の情報が加わることで空間が立体的に立ち上がってきます。土偏に時間の時の字をくっつけて「塒」という一字の効果、こんもりとした「陵」の茂り具合、そこには虎落笛に混じってぎゃあぎゃあと鳥の鳴く声も聞こえてくるのかもしれませんし、鳥たちは陵の暗やみの中で息を潜めているのかもしれません。虎落笛という映像を持たない季語を使うことで映像に奥行きを生み出す、手法の面白い一句でした。
掛川 この週末の気圧配置を見ると、強い風が吹きそうな気配です。聴けるかもしれませんね、虎落笛。
夏井 その音を耳にして、ああこれが「虎落笛」かと、季語を体験していただけると嬉しいなあ。
掛川 ただの冷たい風だなあ〜ではなく、「虎落笛」だと認識して風の音を聴きたいものですね。
夏井 掛川さん、語ることが俳人だね!
掛川 いやいや(笑)、夏井さん、「いつき組」の皆さん、今日はありがとうございました。
- 2015.12.26 Saturday
- 俳句
- 08:24
- comments(4)
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- by 夏井いつき
趣の違う3句を選ばれるところ組長の面目や駆除、
もとい、面目躍如ですな。
この広さに、今日もまあついて行くか、と思うわけです。はい。