放歌高吟 6月9日号

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              アモーレ

    抱けば我が胸蹴る赤子夏来る
    赤ん坊のアモーレ甘いアマリリス
    端午の日男を見れば泣く赤子
    硝子つたう緑雨を追うて赤子の目
    紙おむつ84枚入りの虹
    ミルクの「ミ」は未来の「み」です若葉風
    赤ん坊が笑うてんとう虫わらう
    0歳児用の絵本と雨と虹
    芥子色のうんち六月色の雲
    乳を吸う息荒々し梅雨籠もり
    乳吐いて梅雨の黄色き星さびし
    くうくうと乳吸う汗の甘く匂う
    よだれよだれよだれよだるる裸の子
    泣く子の汗と抱く吾の汗の混じる汗
    蝉の昼名付け親なる和尚来る
    あっぱっぱ着て赤ん坊ゆするゆする
    みにくいアヒルの子色のバスタオルに裸子
    旱星母恋うことを覚え泣く
    祖父の胸吸うてもみたる裸の子
    金玉と呼ぶにはいとけなき涼しさ

     

    放歌高吟 5月3日号

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              春眠き

      ざんざんと朝を揺すれる椿山
      春暁の風は不安だから鳴くよ
      木の香立つ巣箱の穴のかたちの香
      春動く真白き鯉を王者とし
      蛤の水管口(すいかんこう)にゆらぐ水
      神官の家の蛤汁しょっぱい
      春愁の瘤はハマグリ大となる
      皇国や蛤は海吐き出しつ
      春の黴匂う納骨堂の扉(ドア)
      いかなごや悼むにこぼす昼の酒
      引けば鳴る春の祭の輿の鈴
      刺青の男と春祭の山羊と
      そよぐ春服ひかる春服すれ違う
      マシュマロという春を噛むここちかな
      春眠き目玉は砂糖漬にせん
       

      放歌高吟 4月号1日号

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                 皺くちゃ玉

        春はあけぼの孫とはこんな皺くちゃ玉
        長閑やかに垂れ沐浴の手も足も
        今日よりの祖母ぞと言えば山笑う
        春の鳥生まれて三日目の窓へ
        春光へうごく赤子の三白眼
        雪柳吹き上げ赤子おびえさせ
        臍の緒の乾きて柳の芽のゆれて
        乾いた虫けらみたいに春の臍の緒は
        孫とは真に膝に春抱くごときかな
        一筆啓上さくら咲いたか嬰は寝たか
        泣くための息ひいと吸う桜かな
        哺乳ビン煮るも深夜の一仕事
        乳房(ちち)掴み出すや春夜の嬰の口へ
        春夜喚くのどちんこ千切ってやろか
        酒臭き祖母を許せよ春の宵
        乱暴に赤子を揺する春の歌
        春空へ産着十枚はためかす
        長閑かな赤子の尻の穴眺む
        育児日記に記す「菜の花色の糞」
        十日目の赤子にさくら便りかな

        万愚節の今朝は生まれて21日目。元気におっぱい飲んで、やんちゃに泣いております。
        母子ともに順調。明るい春の泣き声です♪
        「もっと可愛い句も載せてよ」と娘から抗議を受けてしまいました(笑)。

        放歌高吟 3月号1日号

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                 雛の日

          この水の味を余寒の香としたり
          かの水のごとくに梅のあふれけり
          鳥の胸白し余寒の風清し
          かたかごの花は飛べなくなった鳥
          片栗の花を鳴らしてみたき風
          片栗の花の里より中継です
          鶯や万の波頭は湖心より
          たちあがらんとすればひかりとなる春濤
          金色の蒔絵の鳥や雛の日
          赤子泣けよ春の太陽こわれるほど
          春の園空は水色セレナーデ
          はこべらをこんなにつんで淋しい歌

           

          放歌高吟 2月15日号

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                     待春

            待春のひかりをスポイトに吸ひ上ぐ
            かつて車両でありし鉄塊春隣
            算額の円こそ春を待つカタチ
            施主の名に鯉三郎とある待春
            節分の雨呼ぶごとく護摩木焚く
            厄除のわらじに足の余りたり
            しようが湯のつんと鼻つく追儺かな
            神鏡をかかげて春を呼ぶ男
            大蛇待つ春の神楽の鈴激し
            帯に咲く鳥よさくらよ針供養
            巻き貝のぐるぐるぐるぐると余寒
            濡れてゐる鋏に早春の匂ひ


            放歌高吟 2月号

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                   白湯

              北京語も霰も跳ねる石畳
              冬日いま毛沢東の赤ならん
              落葉匂えり成層圏のかく蒼く
              コビトカバぬるりと冬の水臭わせ
              冬蝶をひかりと断ず水もまた
              人体に冷たき腱や室の花
              湯冷めして花のようなる白湯かおる
              障子美しひらく枕草子かな
              温石をしまうにちょうど佳き箱ぞ
              河豚汁やちと複雑な家でして
              マスクしてマロニーちゃんを買い足して
              月番の札のぶらんと冬籠
               

              放歌高吟1月号

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                      お元日

                去年の水落とす今年の胃の腑かな
                お降りや市花を象るマンホール
                ポメラニアンの尾っぽぴゅるるんお元日
                二日なる風聞ブラジルは遠し
                墓探すことも楽しき三日かな
                年上の義弟を諭す四日かな
                耳に震えて五日のコルトレーン嗚呼
                白味噌は甘し六日の夜の気怠
                人日の端子に赤と黄と白と
                縄文の色ともおもう福寿草
                左義長の指図あれこれ書き留めて
                松過の青とは淋し観覧車

                あけましておめでとうございます!
                今月からは「放歌高吟」は月初めの掲載です。今年もよろしゅうご愛読下さい。 

                そして、正観寺での「除夜の鐘撞き」吟行、付き合ってくれた組員諸氏、ありがとう♪
                白道和尚に続く鐘を、撞かせてもらいました。
                白道さん&宗久さん、御神酒&狸汁ご馳走さんでした!

                たまたま鐘撞き&御神酒をご一緒することになったニシグチ青年&ユヤマ少年、俳句集団『いつき組』というのが、ワタクシたちの正体です。これも何かのご縁です。以後、お見知りおきを♪

                そして、皆さん、今年もよろしくお願いしますね!


                放歌高吟 12月号

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                  皆さんのお手元に、俳句マガジン『100年俳句計画』1月号届く頃でしょうか。一ヶ月遅れの「放歌高吟」お届け致します!

                      露の力

                  記紀の明るさにふえくる小鳥かな
                  神在の月こそ楽しけれ酒も
                  山彦をつかみ損ねて鳥威し
                  この光るものも鳥威しであるか
                  十方へ散るやひかりの飛蝗たち
                  菊人形となる前の首置いてある
                  松手入れ終えたり修羅の家深閑
                  さびしさに葦の穂絮を打ちに打つ
                  きゅんと鳴きそうに転(まろ)びて露の玉
                  露ころがり出さんとひかり膨らみ来
                  しろがねの露たばしれる無音界
                  露は露の力をひかるばかりなり

                   毎朝パソコンを付け、Yahoo!ニュースに目を通すところから一日が始まる。日本の出来事、世界の動静を一通り眺める。興味があるわけではないが、芸能ニュースも目に入る。先日報道された、タモリさんが『笑っていいとも』を降板するという話題。32年間続けてこられたと知り、唸った。我がラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』の12年なんぞはまだまだヒヨッコだ。
                   来年3月で番組を引くタモリさんに触発されたわけではないが、私も来年の8月をもって我が社を引き、一人の俳人としての活動にシフトする。マネージメントは引き続きマルコボコムにお願いするが、会社組織からは完全に外れる。
                   兼ねてから本誌は「オープンな月刊誌のふりした夏井の結社誌」と見られがちで、「そんなケツの穴のこまい俳誌ちゃうで」と主張するために月刊俳句マガジン『いつき組』の名を捨て『100年俳句計画』と誌名を改めた。が、「夏井の選句欄がある以上は結社誌」「主宰誌みたいに特別な欄に己の作品を載せてる」「組員じゃないから購読しない」等の声は根強いらしく、編集室サイドは、志を真っ当に受け止めてもらえないことに悩みを深めてきたという。
                   その綿々たる訴えを聞き、どうしたものか……と私なりに悩みもしてきたが、よくよく考えてみれば、編集室が目指す方向性にとって「夏井いつき」の名が負荷を掛けるのであれば、『いつき組』の誌名を捨てたと同じにその名を消せばよいではないかと気づいた。あまりにもカンタンな方法だったので、拍子抜けするほどだ。
                   編集室サイドが本誌で実現したいアイデアは沸々と渦巻いているに違いない。それをバックアップしてやることが年長者の務めではないかと思う。キム編集長が打ち出す企画を読者と共に愉しみたいと思う。
                   となると、俳人夏井いつきはどこへ向かうのか。心配はご無用だ。俳句集団『いつき組』組長個人として、執筆活動と社会貢献に突き進む。我が作品は句集シングルの形で次々に発表していく。「俳句」を使った生涯教育に取り組み、「俳句」を軸としたコミュニケーションの輪を広げる。百年後を見据えて、やるべきことは山積みだ。
                   その山積みの第一歩が、この連載をあっけらかんと終わらせることだ。100年俳句計画のために『いつき組』を失うこともないし、『いつき組』のために100年俳句計画が損なわれることもない。が、本誌の「地の塩」として、夏井いつきはこの誌面から去る準備に入る。本誌が立派に独立独歩踏み出す日がくれば、いつか夏井いつき個人に作品依頼が届くことだって有り得る。そんな痛快な未来を夢想しつつ、我が百年の志は「露の力」のごとく凜々と膨らむ。


                  放歌高吟 11月号

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                    そろそろ皆様のお手元に月刊俳句マガジン『100年俳句計画』が届く頃でしょうか。
                    一ヶ月遅れの「放歌高吟」お届けいたします。

                          色鳥

                    秋晴やこちらは富士の見えぬ席
                    タイル絵の富士山敬老日の混雑
                    宝町公証役場なる糸瓜
                    枝豆やあれは夫婦でない二人
                    秋鯵も恋も腥くて困る
                    飛蝗さんざん飛ばして来たる崖っぷち
                    虫籠へ白き花など入れてやる
                    花のようにかまきりうすみどりに潰れ
                    色鳥はひかりを千切るように捷(と)し
                    色鳥や野へ還りゆく音楽堂
                    木の実跳ね小鳥のようなイタリア語
                    赤い羽根百本くばり切って空

                    最近あれこれ思い立つことがあって、身辺の整理を始めた。秋山好古の「身辺は単純明快でいい 」と言い切るカッコよさに憧れはするものの、何もかも捨てきった一遍上人の真似はできない。仙人でも世捨て人でもないので、日々の小さな欲は人生の大事なスパイス。うっかりとそれらを手放すわけにはいかない。
                    が、しかし、今の自分なりに捨てられるものを捨て整理できるものを整理していけば、この我が身だとて少しは軽やかになり、軽やかになった分だけ残りの人生を悠然と暮らしていけるのではないかと夢想する。
                    まずは、不用意に増えてしまったカードを整理し、使ってない通帳の類いを解約し、無駄に掛けてきた保険を精査し、実家の土地問題を弁護士事務所に相談した。母の介護のため介護施設二社との契約を結び、訪問看護の段取りも整えた。それらと並行し、家に保管してある大量の資料や本やゴミや思い出の類いをバンバン捨て始めている。
                    こんなことを日々実行していると、「句集を作る」とは「句を捨てる」行為なのだと改めて認識し直す。句集として整理し発表してこそ、他者に伝え得る芸術表現になるわけだし、捨てることによって新しい何かが生まれ始めもする。これは句集を上梓する度に何度でも実感する真実だ。
                    先日ぶんぶく句会の席で、待ちに待った句集スタイルの一冊『からからころと』を手にした。村重蕃さんの句集だ。表紙は書道家でもある奥様ももさんの手による作品をデザイン化。青墨の滲みが実に美しい。

                      青墨もすだちも青く匂いたつ             いつき
                      柿かめばからからころと動く顎

                    ぶんぶく句会恒例の席題である「今宵饗される食材」を詠み込んで、作者蕃さんに捧げる二句。そして句集名「からからころ」は、彼のこんな一句にちなんでの命名である。

                      無患子のからからころと別れよか   蕃

                    手に取って読んでみると、小憎らしいほど落ち着いた滋味と「からからころ」 と鳴りそうなほど軽やかな俳味に満ちた一冊。読後、思わずつぶやいた我が夫のこんな台詞を拝借しての一句を、再度、蕃さんご夫妻に贈りたい。

                      柿食うて第二句集を待ち望む     いつき&兼光

                    色鳥のひかりが押し寄せる明日への希望の糧として。

                    放歌高吟  2013年10月号

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                      そろそろお手元に月刊俳句マガジン『100年俳句計画』が届く頃でしょうか。一ヶ月遅れの「放歌高吟」お届けいたします。今回は、全焼した宝厳寺の話題です。

                            露草
                      秋の蝉ぎゅいぎゅい鳴いた寺焼けた
                      焼け爛れた臭いの中を蟋蟀歩く
                      すっぱりと何もない露草がある
                      秋風を放ちて霊峰のうすずみ
                      老いて子に従うものか秋の蝉
                      好古の墓に蚊帳吊草たむく
                      鯊釣や桃仙人のような爺
                      唐国の秋の蝶とや斑なる
                      桐一葉壺中のくらがりへ落つるか
                      名峰や色鳥あさの色放つ
                      朝顔のことなど草子さんへ書く
                      いなごの目くるんと黒し海青し


                      一遍上人の誕生寺でもある宝厳寺全焼のニュースが、全国に報じられたのは8月10日。その日の午後、私は愛媛新聞社カルチャー講座の仲間たちと句座を囲んでいた。ケイタイがブーブー震え続けていることは気づいていたが、それがモバイル松山消防の火災情報であり、句友たちからの「宝厳寺が燃えてる!」ことを知らせる緊急メールであったことに気づいたのは、句座が終わった夕方5時過ぎだった。
                      自宅にいた夫は、我が家からも宝厳寺が燃える黒い煙が見えたといい、フェィスブック上で様々な情報を集めてくれていた。住職夫妻は無事なのか、宝厳寺所蔵の国指定重要文化財「木造一遍上人立像」は運び出されたのか、苛立ちが募る中、少しずつ状況が明らかになっていった。
                      秋暑の晴天が続きカラカラに乾燥していたこともあってか、余りの火勢の速さに本堂も庫裏もあっという間に炎上。一遍上人像は一片も残さず灰になってしまった。着の身着のまま飛び出し九死に一生を得られた住職夫妻のご無事だけが、唯一無二の有り難い事実であった。
                      9月8日、子規記念博物館主催『道後俳句塾』では、宇多喜代子・黒田杏子両先生を迎えて、今年も道後吟行会が行われた。毎年定点観測の場所として、全国の句友たちと共に集ってきた宝厳寺は、真っ黒な柱と梁を残し、見事に焼け爛れていた。宙吊りのままに焦げた梁はゆらゆらと秋風に揺れ、本堂の軒に吊されていた小さな釣鐘は炎の色をとどめるかのように変色していた。樹齢200年の銀杏二本は本堂側半分が焼け果て、残りの側には夥しい数のギンナンがその青を犇めかせていた。
                      が、焼け跡に対峙した私たちの心に映ったものは喪失感というよりは、とてつもないシュールな芸術作品を前にしているかのような不思議な感慨だった。美しいものを目の前にして、言葉が見つけられない…とでもいうような感動に戸惑いつつも、その美しいものを皆いつまでもいつまでも眺めていた。すっぱりと何もないことの清々しさとは、こういうことであるのかと、すとんと腑に落ちた気がした。
                      本堂の傍らの焼け焦げた棕櫚の根方には、うすみどりの蘖がびっしりと生えている。不屈の露草はその青を凜々と掲げている。何もない今日という日が、生きて在る私たちの手に瑞々しく在る。

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                      2択で学ぶ赤ペン俳句教室
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                      1日の終わりに
                      愉快な俳句と小さな気づきを。

                      寝る前に読む一句、二句。
                      (発行:ワニブックス)

                      一冊丸ごと雪づくし!
                      ビジュアルで発想を鍛えて
                      季語に強くなる

                      夏井いつきの
                      「雪」の歳時記

                      (発行:世界文化社)

                      だれでもカンタンに
                      「才能アリ!」な俳句が作れる!

                      夏井いつきの
                      超カンタン!俳句塾

                      (発行:世界文化社)

                      「才能アリ!」な季節の挨拶
                      季語を使ったお便り実用書

                      夏井いつきの
                      美しき、季節と日本語

                      (発行:ワニブックス)

                      夏井いつき第一句集復刊!
                      新装版となって登場

                      句集 伊月集 龍
                      夏井いつき
                      (発行:朝日出版社)


                      超辛口先生の赤ペン俳句教室
                      夏井いつき
                      (発行:朝日出版社)


                      俳優 勝村政信×俳人 夏井いつき
                      付句のある往復Eメール書簡集



                      句集シングル 龍尾



                      句集シングル 蝶語

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